中学生シュンくんの葛藤と決意
「三橋!遅れる!」
「わ わぁ、ゆ、ゆーいちろ くんっ」
朝の風景だ。同じ高校に通って、野球部に入っているのだから、朝練は非常に早い
時間から始まる。
わーわー言っているうちの兄ではなく、オレにくるりと振り向いて、この頃見せて
くれるようになったぎこちなさが残る笑みで、いつもの言葉を言う。
「朝早く起こしてごめんね、シュンちゃん。お弁当と朝食はいつも…」
「三橋!はりあっぷ!」
ンの馬鹿兄貴!見ると兄である悠一郎がオレの顔を見て、ふっと笑ったところだっ
た。無論、三橋…廉さんには全く気付かない状態で。
三橋さんは、クソ馬鹿兄貴と同い年だ。なんと信じられないことに、施設に入って
いた三橋さんを偶然、うちの父母が見つけたのだ。
タコ野郎兄貴と廉さんの産まれた病院は、なんと困ったことに出産中に火事を起こ
したのだ。この時廉さん産まれて5分。スカタン兄貴は産まれる何分前か、というと
ころだった。しかも火の手は速く、看護師が預かる形で廉さんを抱っこして逃げたの
だ。
その看護師が死体で見つかった時、両親は泣き崩れたという。ゲンミツ馬鹿兄貴も
産まれたばかりで泣いていたらしい。みゃーみゃー泣いていたと言ってたな。
それから15年。中学を卒業したら施設を出なければならない廉さんが、職探しに
街に出たところ、うちのかーさんと鉢合わせドン!二人で謝った後、名前を聞いて、
まず母親とそっくりな廉さん本人の顔と髪、そして長男だったらこの名前にしようと
いう「廉」の名前。そして亡くなった看護師の名字『三橋』。
それからあっという間だった。スカタン馬鹿兄貴に兄貴ができた。それが廉さん。
ずっと施設の子供たちと学んでいたから、自分の部屋を持った時、すごくうれしそう
に泣いていた。オレと果報馬鹿兄貴とその時だけは拳をコンと軽く打ち合わせた。そ
の時まで、キョドキョドとしていたのだ。
あれから半年。廉さんは学校に慣れたと兄貴が言っていた。投げる事が三度の飯よ
り大好きな(あながち嘘じゃない)廉さんは仲間に慣れてきたということだ。で、朝
食とお弁当を作ってくれ、掃除洗濯云々…この家には一人いないと困ってしまう「家
事の人」だ。オレが少しは片付けたりするけど、廉さんのほうが速い。施設にいた時
はいつもこの何倍も作っていたから。との事。あの少ない時間で夕食の下ごしらえま
でしてしまう。
あ?なんで悠一郎馬鹿兄貴がその扱いで廉さんって言ってるか?
簡単じゃん。オレ、中学3年だけど、廉大好き、アイシチャッテるもんね。
問題は…あの兄貴だ。兄貴は同学年の上に同じクラスとの事で、いつも何かしゃべ
っているらしい。オレもなー、三つ子だったらなぁ、一緒に行けたのに…と、その前
に、馬鹿兄貴が邪魔。両親は仕事で海外。これで馬鹿兄貴がいなければ、廉捕まえて
「かまってかまって」攻撃(廉さんはこれに弱い)をした後、美味しくぺろりと頂戴
するのに……と、あの馬鹿兄貴も思っているだろう。
オレはアイツにぎゃふんと言わせたい。やっぱり廉さんをモノにするのが一番だけ
ど…まだあの人、色々なことに慣れてないからなぁ……あ、明後日は練習試合だっけ
?見に行くかな?廉さんの好きなジュース持って。やっぱり慣れてくれないとね。
ピピピピピ……
その時、オレのケータイが鳴った。開くとあん畜生から。
本文
色々妄想しているさいちゅうだろうけど、三橋はオレのだからな!
なんだったら、三橋が風呂入っているところ、見ていいぞ。オレが許可する。
せいぜいあがけ、中3坊主
…もう少しでたたき割るところだった。今携帯高いから、嫌がられるんだよな。修
理だけでも。
おっと、こんな時間。廉さんの作った朝食に、弁当持って。今日の弁当は何だろう。
食欲を満たすために、オレはキッチンへと向かった。
練習で廉さんが馬鹿兄貴と帰ってきたのは、9時過ぎだった。さっそく兄貴に追い
立てられるようにレンさんが風呂へ入る。
「気配殺していけよ?あと、声あげんなよ?」
「へいへい、了解でやんすよ、兄貴殿。」
そーいやー、前はたまに風呂に入っていたのに…入ってないな。でも覗くだけ。の
ぞく……だ ……け…………
…
……
………
…………
「てんめぇ!馬鹿兄貴!」
「服が隠れるところについてただろ?オレ様ナーイス♪」
5か所ほど虫さされみたいになっているのは……いわゆるキスマーク。
「一度お前と勝負をつけないといけないな…」
「シュン…お前、兄に向けててめぇはねーだろーが!」
言っておくけど、舌戦で兄貴に負けたことはない。兄貴曰く「阿部と栄口を足して
2で割ったよーだ。」だそうで。良く分からないけど。
やはり舌戦には勝ったけど、…その……キスマークばっかりの廉さんを見るにしの
びない。畜生!初めては廉さんと思ってたんだ!夢を返せ!
その晩はやはり寝られなかった。だけど明後日の練習試合の時、猫を数十匹かぶっ
て、先輩方(兄貴含む。あ、廉さんもだぜ?)にご挨拶する。マネージャーの荷物を
手伝って持った……あっちは知らないけど、こっちはずっと調べていたのだ。
さすがに田島悠一郎の弟!?と驚いていたけど、馬鹿兄貴にはできないことであろ
うしおらしく、大人しく挨拶を交わした。少し驚いてる廉さんに平気とのジェスチャ
ーをして、次々と挨拶する。「これからも廉兄さんをよろしくお願いします。」とか
言ってみたり。
兄貴含む何人かのヤツがこっちを睨んでいた。あー、やっぱり廉サンには悪い虫ホ
イホイが付いているだな。
兄貴がそれを寄せ付けないとわかって、少しほっとした。でもこの目の前のたれ目
は廉さんのあれこれを訊いてくる。曖昧な事でごまかしていたら、にこやかな人(後
ほど、たれ目は阿部、にこやかさんは栄口とわかった。この間この二人を2で割った
ようなという表現は………正直、当てはまりたくない)が問答無用で蹴っ飛ばされた
……スパイクなのに痛くないのか?
相手チームが出てきた。部外者になるオレは外へ出ないといけない。
「先輩がた、頑張ってください!」
言うと、全員がきょろきょろして「オレだ。」「オレたちだ。」と驚いていた。
これで廉さんへの精神的なアプローチはうまくいったかな?廉さんもウヒと笑って
いる。よかった。
えーと、結論から言っていいか?廉さん中心に我が家は回っている。そしてそれを
乱すとどちらからか鉄拳制裁を受ける。
結論というより、家訓だな。
オレはフェンス越しに、野球部の練習試合を見たのだった。あ、無論、お弁当は持
ってきたぜ?日の丸弁当と豪華弁当。兄貴と親父は全く料理が駄目だったから、オレ
が覚えた。今は一緒に片付けてくれる人がいるので凄くありがたい。
西浦高校の攻撃は、見事放物線を作って、三遊間に落ちた。…やっぱり兄貴だ。
オレも牛乳飲んで、勉強は…それほどでも頑張らなくてもいいな。成績5段階で4
以下とったことないし。
さぁ!もう少ししたら受験だ!廉さんの夜食は楽しみだ。
後ほど兄貴から「試合中にきもちわりぃ顔すんな。」と言われた。まぁいい。と思
う。
これから、廉サンとさらにさらに仲良くなんだから。
兄貴面してると、廉サン奪うから。マジで。
覚えておけよ!馬鹿兄貴!!
きなこさんより戴きました。
管理人からのリクエストは田島と三橋とシュンが兄弟でどたばた。
夢が叶っちゃいましたね。有難う御座いました!
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