HAPPY B.D #05

田島の誕生日を祝おうと三橋家に乗り込んだ一同。
全員出てきます(一応)


 酒が進んでくるとやはり話は恋愛に向かうらしい。それはふと巣山が漏らしたひと言がきっかけだった。
「この中で一番モテるのって誰だと思う?」
 その質問に全員が顔を見合わせた。
「栄口あたりじゃねぇの? 女好きだし」
「女好きって……」
 泉の何気ないひと言にテーブルを拭いていた手が止まる。彼は暇さえあれば周囲をこまめに掃除していた。その細やかな気配りはチーム一である。
「意外と泉もそうかも。面倒見いいし」
「いや、ここは案外真面目で頼れる花井ってのもアリだろ」
 花井はどうよ、と泉に問いかけられ、彼はしばし考え込んだ。いかなる質問にも生真面目に答える彼は考え込んだのち、ひとつ息を吐いてからケーキを口いっぱいに頬張った田島をちらりと見た。
「やっぱ田島じゃねぇの? コイツなんだかんだで結構すげぇし」
 認めたくはなかったが、それは事実としていつも彼の前に立ちはだかった。花井としては不本意ながらもほめたつもりだったが、田島は納得いかない顔で応える。
「オレ、三橋以外のヤツどーでもいいや」
「テメェはまたそーいうことを!」
 しかもそう言われた三橋は鼻の下を伸ばして喜んでいる。
「もうほっとけって」
「いいのか?! それで」
「田島なんだから」
 そのひと言で何もかもが通じてしまう。
 改めて田島のすごさを実感した花井だった。


 食べ物もほとんど食べつくし、ひとしきり騒ぎ立てた頃。
 真っ青だった空はすっぽりと闇に包まれていた。ふと窓の外に目をやった泉は大きく伸びをしてコップに残っていた酒を飲み干す。
「オレちょっと仮眠とるけど。花井も少し休んだら? 怒ってばっかで疲れたろ」
「田島のせいだっつーの。だいたいお前酔ってんの? それとも素面なわけ?」
「え? わっかんねー」
「……やっぱオレも仮眠とるわ」
 精神的な疲労を訴え、花井は泉とともに隅で仮眠をとることにする。
「落書きしたらぶっとばすぞ」
「へいへい」
 釘を刺されて残念そうに田島が舌打ちした。
「なぁなぁ、まだ酒ある?」
「あるよ」
「邪魔者いなくなったし、飲もうぜ」
「田島……お前」
 田島に突っ込んでも無駄だと悟った一同は、引きつった笑みを浮かべるだけに留めた。
 タイミングを逃して眠りにつきそこねた栄口は仕方なくテーブルの片付けに専念する。少なくなった食材をひとつの皿にまとめ、空になった皿を重ねて隅に寄せる。
 花井が突っ込まずにいられないのは性分だと言った彼だったが、いつも周囲を見回してしまうのは彼自身の性分だった。
 周囲を見回すととんでもないものを目にすることが多々あったが、まさにその瞬間を目の当たりにしてしまう。邪魔者がいなくなったのをいいことに田島が三橋に短くキスをした。すでに突っ込むことを放棄した彼はさりげなく視線をそらした。
 そらした視線の先では顔を赤くして「おっとぅ」と小声で呟く巣山がいる。同士にしかわからない疲れ果てたため息でそっと会話した。
 とにかく、何も見なかったことにしよう。
「さ、栄口、くんは、飲まないの?」
「え?」
 さっきの光景を思い出して栄口は思わず赤面してしまう。
 照れ隠しなのか、一升瓶を胸に抱えた三橋が上目遣いで様子を窺っていた。どうやら酒を注ぎたくてたまらないらしい。察した栄口は一杯くらいなら、と思い「ありがとう」とグラスを傾けた。
 すると途端に三橋の頬が喜びで紅く染まる。どうしてもこの表情には負けてしまうのだった。
 グラスに口をつけるのを今か今かと待っている様子に苦笑し、半分ほど流し込む。すると待ってましたとばかりに再びいっぱいに液体が注がれた。またしても期待に満ちた双眸に見つめられ、半ばやけになって一気に飲んでしまう。
 こうなると三橋の手は迷わず同じ動作を繰り返した。このやりとりが何度か続き、さすがに苦しくなってきた栄口はなるべく優しい声音で諭しにかかる。
「あのな、三橋」
「さっかえぐちー!」
 何事かと思うよりわずかに早く、田島の魔の手が伸びてきた。無理矢理顎をつかまれて上を向かされた栄口の目にグラスが映る。
「た、たじま!?」
 限界寸前だった体に無理矢理酒が流し込まれる。なす術も無くそれを飲み込んだ。耳元で田島の笑う声がしたが、それはやがて遠くなっていった。
「アレ? 栄口死んだ?」
 突っ込み役はすべて眠りについたため、全員が「そうだね」とやや物足りない返答を返した。
 巣山は悲惨な倒れ方をした同士に黙祷を捧げる。部屋のあちこちに転がるチームメートを見渡した田島は、頭の上に手を置いて数秒沈黙した。その目が打席に入るときのものに良く似ていたので、巣山は何事かと息を呑む。だが口をついたのはその表情から程遠いものだった。
「おし! 一緒に寝ようぜ、ミハシ!」
「えぇ!?」
 叫んだのは三橋ではなく、巣山だった。
「お前じゃねーぞ」
 そんなことはわかっていたが、驚きのあまり言葉が出てこない。先程のキスを見ていた巣山としては、寝ようの意味を深く考えずにはいられなかった。
「オレ、田島くんといっしょに、寝る!」
「お姫様だっこしてやる!」
「うん!」
 もう勝手にしてくれ。
 魔王は半分ほど残っている。こうなったらやけ酒しかない、とことん飲んでやる、と神様に誓った巣山だった。
「巣山尚治、コブクロ歌います!」
 観客は西広、ただひとりだった。


NEXT | BACK | INDEX