HAPPY B.D #01

田島の誕生日を祝おうと三橋家に乗り込んだ一同。
全員出てきます(一応)


 十月十六日、快晴。晴れた日が良く似合う少年がこの日誕生した。
 田島悠一郎、五人兄弟の末っ子に生まれた彼はこの日、十六歳の誕生日を迎えた。


「おじゃましまーす」
 少年たちが一斉に三橋家に入っていく。
 今日は両親が不在とのことで、この場所がとあるイベントの開催場所に選ばれた。主役は落ち着きない様子で家中を駆け回り、見かねた花井に首根っこをつかまれる。
 この日はこれまで試合で多大なる活躍を見せてくれた田島の誕生日ということもあり、百枝も志賀も練習を休みにして存分に楽しんで来いと手を振った。すっかりはしゃぎまわる一同は、それぞれ持ち寄った食材や飲み物を見せ合いながら二階に向かう。相変わらず散らかった部屋に真っ先に飛び込んだ三橋は、ゴミ袋にすべて詰め込んで隅に放り投げた。
「ど、どうぞ」
 部屋の真ん中に置かれたテーブルにそれぞれ持ち寄った食材を置いていく。
「とりあえず皿とかコップ取りいくぞ」
 花井が三橋に声をかけると、手を上げて田島が駆け寄ってきた。
「オレも!」
「主役は座ってろ」
「えー」
「いいから」
 水谷に背中を押されて田島は渋々テーブルの側に腰を下ろした。主役の隣りは水谷と泉が陣取る。
 すでに袋から漏れているおいしそうなにおいに田島の目が輝いた。どうやら水谷がフライドチキンを大量に購入してきたらしい。「おまえ好きだろ?」と尋ねられると口元を拭きながら何度も頷いた。
 誕生日を家族で祝うことはあったが、これほど盛大ではなかった。兄弟が多いため、ケーキを買ってきても奪い合うのに必死だった記憶しかない。
 ちなみにケーキを担当していたのは阿部と栄口である。
「ケーキちょっとみてもいい?」
 テーブルに肘をついて身を乗り出すと、栄口がにこやかに快諾する。
「そのケーキ、阿部が選んだんだよな」
 瞬間阿部の表情が強張る。どうやら秘密だったようだ。しかし鋭い視線に気づかず栄口はそわそわしながら田島の反応を待った。
 箱をそっと開けると「HAPPY BIRTHDAY 悠一郎」と書かれたハート型のチョコレートが目に飛び込んできた。
「ハートって、マジで?! 阿部が? 似合わねー」
「うるせー」
 水谷の言葉に阿部の目がつりあがる。しかし視線はすぐに主役の方へ向かった。目を輝かせた少年は真っ直ぐ阿部を見つめて声を弾ませた。
「このチョコんとこ、オレもらっていい?」
「あ? いいよ」
「マジかよー。阿部意外といいヤツじゃん!」
 予想以上の喜びに阿部は拍子抜けした様子で苦笑する。意外と、という言葉は聞かなかったことにする。
 テーブルに食材を並べながらどこのものがおいしいか、食べ物の話で盛り上がる。机いっぱいに広げられた食材に田島はすっかり目を奪われて、今か今かと始まるのを待ちかねていた。そこへトレイに皿やコップを乗せた花井と三橋が戻ってくる。
「そんじゃ、みんな適当に座って」
 花井が取り皿を並べながらそういうと、側で手伝っていた三橋がもじもじしながら田島を盗み見る。その様子に気づいて深いため息をついた。
「行っていーぞ」
「へ?」
「田島んとこ」
 そう言うとなぜか耳まで赤くし、体を揺らしてさらにもじもじしている。理解するのは無理だと判断した花井はなかったことにして準備に専念した。
 ゆらゆら揺れて躊躇している三橋だったが、その様子を見て泉が心得たとばかりに歯を見せてにやっと笑う。面白いものを見つけたとばかりにいつまでもどこに座るか迷っている彼に手招きした。
「みはしー。こっちこっち。田島の隣り来いよ」
「うへっ?」
 目を瞬かせて固まる三橋。すると全員が便乗してはやしたてた。
「そーいや田島に何欲しいって聞いたら、三橋って即答したよな」
 栄口の言葉に全員が「おー」と合唱する。三橋は真っ赤になって俯いた。
「ミハシ、こっちこいよ」
 からかわれてもまったく意に介さない様子の田島は、満面の笑みで両手を振った。三橋は小さく頷いてから滑り込むように主役の隣りを陣取った。それまで隣りに座っていた水谷は阿部の隣りに押しやられている。
 三橋が隣りに座ってすっかりご機嫌な田島。早く始めよーぜと花井をせかした。
「そーいや飲み物は巣山と西広だったよな。出して」
 巣山はスーパーの袋から二リットルの飲料を何本か取り出した。
「西広は?」
 一瞬西広の動きが止まる。彼は一拍置いてから鞄をたぐりよせ、中に手を突っ込んで一度全員を見回した。何事かと皆も固唾を呑んで見守る。
「じゃーん!」
 威勢のいい掛け声とともに一升瓶が大きな音を立ててテーブルに置かれた。皆一瞬状況が飲み込めずに固まる。
 一升瓶のラベルには達筆な文字で「魔王」と書かれていた。しばらく沈黙が続き、それぞれ顔を見合わせて何か言いたそうに口ごもる。
「親のをくすねてきたんだよね」
 まさか西広が酒を持ってくると思わなかった一同はしばし沈黙したが、やがて誰かが「おー」と感心した様子で唸った。
「さすが西広先生」
「やっぱお祝いには酒でしょ」
「いいのかそれで!?」
 泉や水谷、主役の田島は拍手しながら西広を見つめる。飲んではいけないと言われると飲みたくなるのが常である。
 田島は「すっげー」と呟きながら瓶を手に取り、ラベルの文字を感動した様子で眺めた。
 じっと魔王の文字を凝視していた田島が不意に立ち上がり、徐に阿部の胸に一升瓶を押しつける。なんとなく受け取ってしまった阿部はわけもわからずそれをかざしてみせた。
 再び室内に沈黙が訪れる。皆田島の理解不能な行動に唖然としていたが、突然水谷が沈黙を破って素っ頓狂な声を上げた。
「魔王って、まんまじゃん!」
 ぎゃはは、とお腹を押さえて笑い転げる水谷。全員彼の言葉の意味を理解したらしく、生温い空気になった。
 試合以外で皆の心が一致した、歴史的瞬間である。
 しかし言われた当人は相当ご立腹だった。
「クソレフト、てめえ」
 こうして楽しい宴会は始まった。

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